弁護士の藤吉です。

 私からは、前回に引き続き、日本に住む外国人についてお話したいと思います。

 令和元年6月下旬、衝撃的な報道がなされました。

 収容施設に収容されていたナイジェリア国籍の被収容者が飢餓死したというものです。

 この方は、3年7カ月にも及ぶ収容をしてきた等の入管の対応に抗議してハンガーストライキを行っていた最中でした。

 この事件につき、法務省は、対応に問題はなかったとの意見を述べています。

 収容されているのだから、何か悪い事をしているのではないか。

 自らハンガーストライキをしていたのだから、飢餓死も仕方ないのではないか。と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 はたしてそうなのでしょうか。今回のコラムでは、この事件をもとに、外国人の方につき在留資格がなくなってしまった場合、特に収容の問題に焦点をあてていきたいと思います。

 まず、外国人の方が日本に適法に滞在するためには、在留資格(いわゆる「ビザ」)が必要です。

 この在留資格がなくなり、退去を強制する事由があると入管(出入国在留管理庁)が判断した場合には、個別の事情に関係なく、そして裁判所等の他の機関がその適否を審査することなく、収容されうることになります(入管は全件収容主義という立場をとっています)。

 収容所は、「刑務所のよう」と言われるような厳しい場所です。

 さらに、退去強制令書が発付されると、法律上収容の期限はありません。

 日本全体の外国人収容施設での外国人の収容人数は1253人であり、うち6か月以上の長期収容者は679人(54.2%)、3年以上の長期収容者も76人(6%)いる状況です(令和元年6月末日現在法務省資料より)。

 例えば、冒頭のナイジェリア国籍の被収容者の事件があった大村(長崎県)のセンターでは、令和元年8月1日時点で、収容期間が最も短い者で262日間、最も長い者ではなんと1575日間(約4年4か月)、収容されています(日弁連資料より)。

 入管が公表した資料「送還忌避者の実態について」(令和2年3月27日)によれば、令和元年12月末現在の「送還忌避被収容者649人のうち、272人(42%)が(刑事事件として)有罪判決を受けて」いるということです。しかし、逆に言えば、58%は有罪判決を受けていない者ということになります。

 しかも、有罪判決を受けていたとしても、その判決に服することによって刑罰を受けた後に収容されることが通常であるため、法の予定した刑罰を受けて罪を償った上でさらに収容されているということになります。

 これまで述べてきたように、収容された外国人は、「刑務所のよう」な場所で、いつ出られるかもわからない状態で、長期間暮らし続けなければならないのです。

 犯罪をして刑務所に入った場合でも、ほとんどの場合は、「懲役何年」と決められており、その期間が過ぎれば出所できる見込みをもって生活できます。

 しかし、入管の収容はそうではないのです。入管の裁量で、何年でも収容できる構造にあるのです。

 この「裁量」の広さは統計的な資料からもわかります。

 入管の資料によれば、実際、平成28年末時点での長期の被収容者数は313名であったにもかかわらず、平成30年6月末日時点では704名となっており、その数は2倍以上に増加し、全体の被収容者に占める長期収容者の割合も、約28%から約52%にまで増加しました。

 収容から解放されるための手段として仮放免という制度があるのですが(刑事手続における保釈のようなもの)、仮放免の件数、許可数、許可の割合についてみると、平成28年には仮放免の申請全体の約46%にあたる1160人が許可されていたのに対し、平成29年では約26%の822人、平成30年では約17%の523人と、その数および割合は顕著に少なくなっています。

 この間に仮放免の許可を得ることが極めて厳しくなったというのが実際のところです。

 翻って、冒頭で述べたナイジェリア国籍の方の「飢餓死」の事件を振り返ってみましょう。

 法務省の資料によれば、この方は、平成20年5月に「薬物関連刑罰法令違反事件」の有罪判決(執行猶予)が確定し、平成23年8月に窃盗等事件で懲役刑の実刑判決が確定して刑に服し、平成27年11月に仮釈放されて収容されるに至っている方です。

 そして、既に退去強制令書が発布されていましたが、「日本で子どもが生活しており、子どものためにも自ら帰国することを選ぶことはできません。」と述べるなど帰国を拒絶していた方ではあります。

 こう書くと、悪い事をして帰国することも拒んでいるのであれば長期に収容されるのもやむをえないとお感じになる方もいるかと思います。

 しかし、刑罰に関しては既に服役を終えて刑に服しているにもかかわらず、平成27年11月以降、3年7カ月にも及ぶ収容をされなければならなかったのはなぜなのでしょうか。

 退去を強制する必要が仮にあるとしても、その退去を強制するための期間として、3年7カ月も必要なのでしょうか。

 そして、その収容が今後いつまで続くがわからず、釈放(仮放免)の希望もほとんどないとしたら、被収容者はどのように思うのでしょうか。その収容者の思いは、無視してよいものなのでしょうか。

 日本に家族がいるにもかかわらず、自ら帰国することを希望できるでしょうか。

 このナイジェリア国籍の方も自身が罪を犯してしまったことは十分に理解していたでしょう。

 しかし、それでも、ハンガーストライキという、非常に自分自身もつらい思いをする手段に出て、しかもそれを自身が死亡するまで続けるほどだったこの方が、どれだけ苦しく、どれだけ追い込まれた状況にあったのか、想像してみてください。

 そして、そんなことを、裁判所等の外部の審査を経ることなく行うことができてしまうのが現在の制度なのです。収容の判断や、収容の期間やどんな場合に仮放免をするのか等といったことを、広い裁量のもとで入管に任せてしまうだけでいいのでしょうか。

 本稿で触れた、入管の「収容」に関する問題はごく一部です。

 インターネットで「外国人 収容」と検索すると、多くの報道や意見書等に接することができますので、ぜひ一度ご覧になっていただければと思います。

 この「収容」の問題は、日本国籍を有しない、外国人の問題です。

 日本国籍を有する多数派の日本人からみたら、日本国籍を有しない少数派の外国人の方の問題です。

 外国人だから仕方がないで終わっていいのか。外国人にも守られるべきものがあるのではないのか。少数者の権利自由を守るという、憲法の理念に照らし、一度皆様にも立ち止まって考えていただきたく、拙稿を投じます。

(弁護士 藤吉彬)