2023年2月25日(土)松戸市民会館にて、東葛総合法律事務所友の会の主催で、第52回ためになる講座(以下、「ため講」)が開催されました。「布川事件と友の会〜40年の歴史を振り返る〜」と題した今回の講座は、約50名の方々にご参加いただきました。

講座のプログラムは、全3部による構成で進められました。
第1部は、「写真で振り返る40年」です。
東葛総合法律事務所が保管していた布川事件に関する40年分の写真を、スライドショーにまとめ、事件の歴史を振り返りました。

ここでは、事務所や友の会を代表する6名の方々に、コメントをいただきました。事務所からは、布川事件再審弁護団メンバーである蒲田孝代弁護士と福富美穂子弁護士、そして、元事務局長として東葛守る会の発足に尽力された冨田さんの3名に、友の会からは、桜井さん・杉山さんにゆかりのある、小島さん、佐藤さん、田村さんの3名に、ご登壇いただきました。

写真を見ながら、6名の皆さん各々が布川事件にかかわるようになったきっかけや、桜井さん・杉山さんとの出会いのエピソード、また、活動を通じての思い出や裏話などについて、お話しいただきました。
スライドには、桜井さんのお父様の写真もあり、そのお父様が友の会の行事に参加された際のエピソードが、冨田さんから語られました。「どうか無実の息子を助けてください」と支援を募っていた姿を、今でも忘れることができないといいます。

休憩をはさんでの第2部は、友の会会員の都田さんによる、桜井さんの詩『父ちゃん』と『待つ』の朗読でした。

これらの詩は、桜井さんの、刑務所に収容されたまま過ぎてゆく年月のなかで抱いた怒りや哀しみ、そして同時に、自分は決して独りではなく、決して諦めるわけにはいかないという、希望や決意が込められたものでした。特に『父ちゃん』は、第1部でも触れられたお父様への思いを綴った詩であり、参加者の方々にとって、より強く印象に残るものとなったことでしょう。中には、詩を聴きながら涙を流す方もいらっしゃいました。

講座を締めくくる第3部では、がんと闘いながらも、「えん罪のない社会を作る」という強い信念をもって精力的に活動を続けられている桜井昌司さんご本人から、現在の率直な思いをお話しいただきました。

今回は、ちょうど週明けの2月27日(月)に、日野町事件の再審請求に対する大阪高裁の判断が出るというタイミングでもあり、桜井さんはひときわ熱く、えん罪を生んでしまう現行の刑事司法制度についての憤りを表されました。「この状況を変えるには、一人ひとりがその問題点や危険性について関心を待ち、改善・解消に向けての世論を作っていくことが重要だ」と、訴えておられました。

この講座で初めて布川事件のことを詳しく知ったという参加者の男性は、えん罪は決して自身と無関係ではないことを学んだと、次のような感想を述べていらっしゃいました。「えん罪については、電車に乗る時に痴漢だと思われないように気をつけるくらいしか考えていなかった。他人事だと思っていた。しかし、今日のため講を聴いて、その認識は誤りだったことに気がついた。自分にも(事件当時の桜井さんと同じ年齢の)20歳の子どもがいるが、ある日突然やってもいない罪で子供が警察に捕まってしまったらと考えると、非常に恐ろしい。」

今回のため講は、蒲田弁護士が1982年に再審弁護団に参加してからの約40年を振り返ったものでした。多くの写真や、皆さまからご紹介いただいた様々なエピソードを振り返る中で、実際に桜井さん・杉山さんと接する機会をもった友の会の会員さん達の間に、お二人を支援する輪がどんどんと広がっていった様子が、とてもよく分かりました。

桜井さんと杉山さんが、どれほど壮絶な思いを抱えて生きてこられたかは、到底想像してもし尽くすことができません。しかし、お二方はその過去を、「体験」として、私たちに伝えてきてくださいました。

2015年に杉山さんが亡くなられてから、もう7年以上が経ちます。あっという間に過ぎゆく月日の中で、人はともすると過去を忘れ、同じ過ちを繰り返してしまうかもしれません。私たちは、お二方が伝えてくださった「体験」を風化させず、二度と同じような悲劇を起こさないように未来へ繋げていく努力を絶やしてはいけませんし、また、私たちは実際にそうすることができるはずです。

布川事件の教訓を忘れてはならない。そんな思いを新たにする「ため講」となりました。

(事務局 村山)