警察署の接見室で18歳のあなたと出会ったんだったよね。あれから30年も経ったなんて、月日がたつのは早いですねぇ。そして、あなたは結婚に失敗したと言いながら、子供と時々会える喜びを話してくれたので、私は少しうれしかった。

 思い出せば、あなたは私と初めて会ったとき、軽い調子で「少年院に行けばいいんだろう」と言って、私を怒らせたよね。私は大声を出して「ふざけたことを言うんじゃない!」と言ってしまった。あなたは「なんだよぅ!」と言って少しだけ戸惑っていたっけね。あの時はほんとに腹が立ったのよ。誰が書きなぐったのかしらないけれど、あなたの自宅の壁や車に「人殺し!」「死ね!」などのことばが赤いペンキで大きく書かれていたし、張り紙がべたべたと張られていたし、お母さんは泣き、お父さんはただただ我慢して黙々と働いていたから、どうにもあなたの軽さに腹が立って腹が立って、何度も警察や保護観察所に面会に行ってもあなたを家に帰すべきだとは思えなかった。少年院に送致されるべきだと私は迷わず言った。裁判官も迷わずそのように告げたときの、あなたの様子は淡々としていたよ。少年院に多くを期待していたわけではないけれど・・・家に戻るよりはいいはずだと思った。

 少年院に何度か面会にいって色々と話しができるようになって、少しづつ心を開いてくれているのがわかったよ。私の手紙に返事をくれたときはうれしかったな。落ち着いて物事を考えていこうとしているのが感じられたし、悲しみを感じていることを感じる時もあったから。正直言って期待していなかった少年院の教育に感謝したもの。あなたは否定するかもしれないけれど、少年院の生活はあなたを変えたんだと思うよ。

 ある日の手紙の中で「今、雪が降っています。雪はこんなに白かったでしょうか。」から始まった手紙は自然の美しさや自然の偉大さを感じながら何を考えているのだろうかと涙がでて止まらなかった。あなたは間違いなく心を成長させていると感じられたもの。

 少年院の退院日に迎えに行った帰り道、二人で被害少年のお墓をお参りしたよね。あなたが私と一緒に行きたいと言ってくれたから。花と線香をもって手を合わせるあなたの姿はとても真剣で深く悲しげだった。

 あれから30年、もう48歳。きつい仕事をしながら、あなたは毎月5万円の被害弁償金を一度も遅れることなく30年間支払い続けてきた。自分の犯した罪を忘れることはなかったと言っていたね。あなたの言葉は本当だと思う。
罪を償うというのはこういうあなたの生き方の事だと思う。もう、許してやってくださいと心から思う。失った命を思いながらも、天にともに許しを願いたいと思う。私はあなたの30年間の生きざまにここから静かに乾杯をしたいと思う。

(弁護士 蒲田 孝代)