連休を利用して、2年半ぶりに夫の実家がある長野県松本市に帰省を予定していたところ、美術系の大学に通う息子から「松本に行ったら、足を延ばして上田の無言館にも行きたい」と頼まれました。
戦没画学生慰霊美術館無言館は、太平洋戦争や日中戦争で戦死した美術学校や独学で学んだ画学生たちの遺作が展示されている美術館です。
息子は大学の授業でその存在を知り、行ってみたいと思っていたようでした。
私はそれを聞いてとても嬉しくなりました。
と言うのも、息子は高校生の頃に自分の殻に閉じこもってしまっていた(ように見えた)時期があり、無言館に行きたいと言ったことは、息子が外の世界に目を向けられるようになったと感じられたからです。
自分とほぼ同じ年齢で出征し、志半ばで亡くなってしまった画学生たちの作品を見て何らかの刺激を受けるのではと期待してしまったということもあるかもしれません。
そして五月晴れのとある日、義母、夫、息子、私の4人で無言館を訪れました。
展示室は暗く、テーマも重い美術館ですが、遺作となってしまった絵画には愛する妻や恋人、家族、故郷の風景などが描かれていて、決して悲しいだけではない、彼らの幸せな青春も感じることができました。
絵画の前に展示されている家族や友人宛に送られた戦場からの手紙や、美術学校時代の写真、遺品となってしまった愛用品は、夢を抱きながら生きて帰れなかった現実を突きつけ、彼らの無念さを痛感します。才能溢れる彼らを失ったご家族もまた、さぞ無念だったろうと思います。
帰り際に息子は1枚の絵はがきを買っていました。その絵はがきは、出征前に恋人を描いた作品で「あと5分、あと10分、この絵を描きつづけていたい。外では出征兵士を送る日の丸の小旗がふられていた。生きて帰ってきたら、必ずこの絵の続きを描くから…。と、モデルをつとめてくれた恋人にそう言い残して戦地に発った」というコメントが添えられた絵画がプリントされていたものでした。
息子に詳細な感想は聞いていませんが、学べることのありがたみは十分感じたようでした。彼らの描いた絵画には力があるので、これからの人生に勇気を与えてくれることと信じています。
様々な夢や才能を奪い、本人はもとより、残された家族、恋人、友人に大きな悲しみを与える戦争が世界中から一日も早くなるよう願ってやみません。
(事務局 村山)