2017年夏にもコラムに書きました建設アスベスト訴訟。その後続々と高等裁判所の判決が言い渡されておりますので、続報を書きます。

 いや、私のコラム用持ちネタが建設アスベスト訴訟しか無いなんてことではないですよ、ええ。

 アスベストは特に不燃性・耐熱性に優れた鉱物繊維で、安価だったので、耐火性を強く求められる建材の原材料として使用されてきました。アスベストの粉じんは石綿肺、肺ガン、中皮腫といった恐ろしい病気の原因となるため、アスベスト含有建材を使用してきた建築職人さんたちが石綿関連疾患に罹患し、多くの方々が亡くなりました。その石綿関連疾患を発症した建築職人さんたちと遺族が原告(被災者ベースで合計700名以上)となり、国と建材メーカーを相手取って損害賠償を求めた裁判が建設アスベスト訴訟です。

 2008年5月の東京地裁を皮切りに、各地で次々と提訴されてきた建設アスベスト訴訟ですが、下記のように既に複数の高等裁判所の判決が出ています。

  ①2017年10月27日  東京高裁判決(一審横浜地裁)
  ②2018年3月14日  東京高裁判決(一審東京地裁)
    ③2018年8月31日  大阪高裁判決(一審京都地裁)
  ④2018年9月20日  大阪高裁判決(一審大阪地裁)

 ①の判決では、全国の高等裁判所で初めて国と一部建材メーカーの賠償責任が認められました。

 ②の判決は、これまでの全国の建設アスベスト訴訟で初めて労働者、一人親方、事業主の区別なく、建築現場で労働者と同様に実働していた一人親方や事業主に対する国の賠償責任が認められる画期的判決となりました。

 ③の判決では、労働者、一人親方、事業主の区別をせず、国の賠償責任が認められ、一部建材メーカーの賠償責任も認められました。

 ④の判決でも、労働者、一人親方、事業主の区別をせず、国の賠償責任が認められ、一部建材メーカーの賠償責任も認められました。

 このように、建設アスベスト訴訟は地裁判決よりさらに高裁判決が被害者救済の枠組みを広げてくれている、高等裁判所でより多くのものを勝ち取っている裁判となっています。上記②の判決が出るまでの裁判では、労働者として(例えば工務店の社員として)建築現場で働いていた職人さんに対してのみ国の賠償責任が認められており、労働者と全く同じ作業を同じ現場で行ってきた一人親方といわれる自営業の職人さんや事業主の職人さんについては認められてきませんでした。建築業においては、建築現場で働く職人さんの40%近くが一人親方等であり、日本の建築業はまさに一人親方等なしでは成り立たない状況です。そのような一人親方等が救済されないのでは、石綿関連疾患を発症した多くの職人さんが救済されないということになります。この理不尽な結論を覆し、②以降の高裁判決は、一人親方等に対する国の賠償責任をも認めるに至ったのです。

 最新の大阪高裁判決により、国は建設アスベスト訴訟で10連敗となりました。ところが、国は未だに自らの責任を認めようとも被災者に謝罪しようともせず、開き直りを続けています。このように裁判で連続して国の賠償責任が認められているのに、国が全く解決に乗り出さないなどということは前代未聞です。

 また、建材メーカーも、石綿建材を製造・販売して利益を得ていたにもかかわらず、賠償も謝罪も行おうとしません。石綿建材を大量に製造・販売していた大手企業の中には、現在もテレビCMを多く流している企業もあり、そのCMを見る度に「生命・健康被害をもたらした被災者に対して賠償と謝罪をしてからにすべき」と強い憤りを抱きます。

 現在、高裁判決の出た建設アスベスト訴訟は全て最高裁での上告審となっています。最高裁判決が出るのがいつ頃になるかは不明なのですが、国と建材メーカーは、裁判所の判断に全てを任せるのではなく、自ら解決へと踏み出すべきです。建設アスベスト訴訟の最初の提訴からは既に11年以上が経過し、この間、多くの生存原告が建設アスベスト問題の解決を見ることなく他界されました。時間は残されていません。建設現場で稼働してきたアスベスト被害者に対して裁判を起こさなくても賠償金が支払われるような基金制度を、国と建材メーカー等石綿加害者が協力して設立すべきです。

 例え賠償金が支払われても、亡くなった人が生き返ったり、損なわれた健康が回復するわけではありません。しかし、賠償責任を果たさせ、謝罪をさせることで、国は自らの失策を反省して今後の施策に活かし(そうあって欲しい)、未来の国民の生命健康を守ることにつながります。企業も賠償責任を果たすことで、社会的責任を意識し、人々の生命・健康と共存できる企業へと発展できると考えます。

 今年11月11日には福岡高裁の判決言渡も控えている建設アスベスト訴訟、全面解決のために引き続きご支援下さい。

(弁護士 宗みなえ)